展覧会に向けて|山村仁志

「半世紀後の問い」展に向けて山村仁志

 「半世紀後の問い」展は、作家佐川晃司が1975年に東京藝術大学油画科に入学した同窓生に呼び掛けて実現した展覧会である。今年2024年は、同年から数えてちょうど50年目に当たる。1975年は、上野の東京都美術館で開かれた伝説的な展覧会、東京ビエンナーレ「人間と物質」から5年後で、表現を極限にまで抑制した概念芸術やモノ派の活動が一区切りついた頃だった。そのころから徐々に、多様で新しい芸術が生まれつつあった。同年池袋に西武美術館が開館して、欧米の現代美術とモダンマスターをリアルタイムで紹介した。それは、好景気に沸いた80年代に全国で新しい公立美術館が相次いで開館する前夜だった。1974年までは高松次郎、そして1975年に榎倉康二が藝大油画科の非常勤講師となり、芸術について学生と真摯に語り合いながら、様々な可能性を持った若い作家を育てていくことになる。彼らは、表現の根底について徹底的に考えさせる作家であり、講師だった。

 「半世紀後の問い」展は、彼ら藝大生の50年後の活動を振り返る。彼らが教授や講師、そして仲間と自由に議論しながら芸術について思考し、試行し、志向した多岐にわたる表現の軌跡を展示し、その一断面を現代社会に呈示しようとする試みである。世界的に有名になった作家もいれば、古典技法を研究しコツコツと制作を続けてきた者、またデザインやメディアの世界で働く者、そして後進の指導を通して社会に貢献してきた者など様々である。しかし、50年以上に渡って、何かしら制作を継続してきた作家がこれだけ多く残っている学年も他にない。それは決して偶然ではなく、現代美術が主流の一つとなる日本美術の転回点に彼らが居合わせたが故であると思う。自らの表現について根底から疑うところから歩み始めざるを得なかった彼らの軌跡を、この機会に是非見ていただきたい。

山村仁志
東京都美術館学芸員、美術評論家

参加作家

呼びかけ|佐川晃司

『半世紀後の問い』展の呼びかけ佐川晃司

覚えているだろうか?白い布のかかった台の上に、白い三本の紙筒が立っている。そんなそっけない、いかにもモダニズムの典型のようなモチーフを描いて、私たちは一緒に芸大に入り、同じ場所を共有し、その時代にあって何をなすべきかという問いに悩みながら、それぞれに表現を探し求めた。

あれから間もなく半世紀、この世界はどうだろうか?現在につながる様々な問題の兆候は、その時代にすべて出つくしていたと思うが、今に至って案の定、あらゆる面で深刻さを増すばかり。

たぶん私たちの学年は歴史的な学年だ。すでに泉下の客となった級友も多いが、一方で作品を作り続けている者の多さにおいて奇跡的と言っていい学年だろう。世界的に活躍する者から、ひそかにコツコツと作品を作る者、その中間の者たちも。スタイルも位置づけも何もかもまちまちだろうがそんなことは関係ない。それぞれの場所でこの時代の空気をともに生き、作品を作り続けた者として。

いちど持ち寄ってみないか?いったいこの時代がいかなるものであり、それぞれが何を見て、作ること通して何を語ろうとしているのか?あるいは今さらそんな青臭いことに関わりたくもないと言う者も、いままで制作から遠ざかっていた者も、別にいい。
あらためて照らし会ってみよう。

ポストモダニズムなどという言葉が流行する前に(そんなものがあったとしての話しだが)、それなりに真剣に時代の問題に向き合い、現代美術も古典絵画も具象絵画も抽象絵画も関係なく、そこから表現を立ち上げようとしていた私たちは、ほとんどモダニズムという言葉そのものが生きていた最後の年代だろう。

いちど作品を持ち寄ってみないか?『半世紀後の問い』として。


2022年4月吉日
呼びかけ人:佐川晃司

呼びかけへの応答|川俣 正

一度、集まろうぜ!川俣 正

確かに、俺らのこの学年(1975年度、東京藝術大学油画科入学)は、他の学年の連中より特別だった。現役生が数名で、多浪の学生が多かった。そのため入学当時から個々の表現、制作スタイルの違いでグループが出来て行った。

芸大調の具象画を描くもの、古典技法を習得し、油画本来の立ち位置を模索するもの、壁画や版画の技術習得に明け暮れるもの、現代美術というジャンルに手をつけるものなど、様々な学生がいた。学年が上がるにつけ、ますます個人の制作スタイルの違いで、相互の交流は、なかった。ただ表現ジャンルが違うからといって、決してそれぞれを嫌っていたわけではなく、単純に会話する機会が、なかっただけだった。

共通認識として一部の教官を除いて、俺らは、芸大に対して、そして他の堕落した教官に対して、おもいっきり落胆していたし、反発もしていた。

ただ後年、自分が実際にこの芸大の教官になって、大学の組織の中で働いた時「ああ、こうやってアーティストは、堕落していくんだ」と身に染みて感じた。なので早々に撤退した。

そして、海外での展覧会やプロジェクトに明け暮れしていたある日、同期生だった佐川から来たこの展覧会の開催メッセージに泣けた。

芸大を卒業して半世紀経た現在、どのような時間を使って自分の今があり、これからの残りの人生を、どのように計画していくか同じ大学の学科で、同じ時間を共有していた同胞と会い、改めて考えることも悪くないなと思った。

クソみたいな美術愛好家や、矮小コレクター、芸大讃美の連中なんて、この展覧会に観に来なくていいから、俺らだけで一度、集まろうぜ!

1975年度、東京芸大油画科入学生 
美術家 川俣 正

会場アクセス

展覧会概要

「半世紀後の問い」展は、1975年東京芸術大学油画専攻入学者に呼びかけて、この時にスタートした表現者達が、当時抱いていた其々の課題を半世紀の間にどのように昇華し、そうして今日、あらためて「問い」として具現化した姿を示す試みです。

今展は、一部の局所的な断片の提示かもしれないという懸念はあるものの、制作や生活、あらゆる場面で20世紀モダニズムを意識せざるを得なかった最終世代であろう表現者達の、ありがちな「造形形式の枠」を取去った作品たちを展示することで、出展者の多岐にわたる志向と手法を提示し、それらを通した時代を映す一つの世代観を示す試みでもあります。

半世紀後の問い展実行委員会
菊池敏直

展覧会名

「半世紀後の問い」展―1975年東京芸術大学油画入学生25人の今―

会期

2024年10月5日(土)~12月22日(日)

開館時間

11:00~18:30(入場18:00まで) 

休館日

毎週、月・火・水曜日

会場

東京アートミュージアム(TAM)
東京都調布市仙川町1-25-1
Tel. 03-3305-8686

入館料

大人500円 大高生400円 中小生300円

主催・企画

半世紀後の問い展実行委員会

共催

東京アートミュージアム
一般財団法人プラザ財団

助成

朝日新聞文化財団

協賛

ギャラリーnumART
*プラザギャラリーで関連展示があります
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